「ある生き物がいます。その生き物は最大何歳まで生きられますか」
こう聞かれたら、どう答えますか? すぐに「120歳!」と答える生徒はかなり心配です。おそらく、ある生き物を人間だと決めつけているのだと思います。ある生き物は人間とは限りません。犬なら30歳、象なら70歳です。そうです。生き物によって答えは違うのです。
別の例です。サラリーマンとして働いているあなたが、ある会社からヘッドハンティングを受けているとしましょう。あなたは無条件で新しい会社に移りますか? そんなことあり得ませんね。例えば、年収1000万円以上なら移る、それ未満なら移らない、という判断を下すのも場合分けを行っていることになります。
数学の場合も同じです。「定数a」の値によって答えが変わってくるときは、必ず場合分けを行う必要があります。にもかかわらず、数学において場合分けが苦手な生徒は非常に多いです。その一番の原因は、文字の正しい扱いに慣れていないことにあると私は考えます。文字が登場するのは中学1年生です。「まんじゅう1個が3グラムだとすると、まんじゅうn個は何グラムか?」と聞かれて、「3nグラム」と答えるレベルから始まります。ほとんど全員が答えられると思います。しかし、ここで深く考えずに表面的に学習を続けると、そのときの定期考査では結果が出ても、学年が上がるにつれて苦しくなっていきます。例えば、「整数nを3で割った余りは?」と聞かれて正確に答えられる生徒の数はぐっと減ります(定期考査の範囲として解き方を覚えている場合は別です)。
私は初心者に対して必ずそして何度も伝えることが2つあります。それは、「文字を見たら、それを数字だと思い込み、しかも、その文字についてのすべての可能性を考える」ということと、「表面的にサラッと文字を用いるのではなく、具体的な手触りを感じながら文字を用いる」ということです。以下の2つの問題とその説明を見れば、このことを少しだけでもわかっていただけるかもしれません。
| \(a\) を定数とするとき、不等式 \(ax<a^{2}\) を解け。 |
問題を見て、「 \(x<a\) 」と答えて間違える人がいます。\(a\)を正の実数だと決めつけているためです。それを指摘すると、「(自分は)ミスした~!(次からは大丈夫)」と言って軽く受け流す人もいますが、これは決してミスではありません。普段の文字に対する表面的な捉え方が原因です。本人が思っているよりも、もっと深いところに問題があるのです。
では、私ならどう説明するか。
まず、「 \(x<a\) 」とだけしか答えられなかった生徒には、答えが複数あることを伝えます。そして、上に書いた場合分けの話(生き物の寿命の話)をします。その後、「 \(a\) を数字だと思い込みながら、 \(x<a\) 以外の答えになる場合を考えてごらん。 \(a\) に具体的な数字を当てはめてもいいよ」と伝えて時間を取ります(マンツーマンだからできることです)。それでもわからない生徒には、簡単な一次不等式の問題を数問解いてもらいます。 \(2x<4\)、 \(-2x<4\)…。その際、両辺を \(-\) で掛けたり割ったりすると不等号の向きが変わることについて、理由も含めて実感してもらいます。そして、もう一度もとの問題に戻ると、\(a\) が正の実数の場合と、負の実数の場合で答えが違ってくる、つまり、場合分けをする必要があることに気づいてもらえるでしょう。生徒が最も思いつきにくいのは、\(a=0\) の場合です。両辺を\(0\) で割ることはできません。そういうときは、「根本に戻って最初の不等式に\(a=0\) を代入してみよう」と伝えます。すると、「\(0<0\) 」となって成り立たないことがわかります。「解なし」です。
正式な解答は以下の通りです。しかし、表面的に見ると、何と味気ない解答でしょう。数学が苦手な人は、これを丸暗記しようとします。
| ⅰ)\(a<0\) のとき \(x<a\) ⅱ)\(a=0\) のとき 解はない ⅲ)\(a>0\) のとき \(x>a\) |
この問題が定期考査の範囲に入っていれば、6~7割の生徒は正解すると思います。しかし、それから数ヵ月経ったときにもう一度解いてもらうと、正答率は大幅に下がる可能性があります。これは覚える必要のない問題です。普段から文字を丁寧に扱っていれば、いつどこで解いても正解できる問題です。
もちろんこれは非常に簡単な問題です。しかし、ここから始めないと、将来出会う難問に対応できなくなる可能性があります。実際、私は授業を高校生に対しても、ここから説明を始めることがあります。それでも1年後には偏差値20ほどは上がっています。
次回はこれよりもう少しだけレベルを上げます(「文字の扱いと場合分けについて2(初級~中級)」)。本質は上の問題とまったく同じなのですが、進研模試で偏差値60以下(もしかしたら65以下)の生徒は初見では完答できないと思います。